2019年8月にパンアメリカン競技大会へチームドクターとしてアメリカ五輪チーム(TEAM USA)から参加して参りました。ペルーは何とも15年ぶりでしたが、まさかアメリカ五輪チームに同行して帰ることになるとは当時は考えてもいませんでした。
パンアメリカン競技大会はアメリカ大陸のオリンピック大会で4年に一度開催されます。日本ではアジア大会と言われる大会がありますが、これはその大会のアメリカ大陸と言うとわかりやすいかもしれません。
オリンピックは世界中のアスリートが集まりますが、パンアメリカン競技大会はアメリカ大陸中のトップアスリートが集まります。また、国の規模によっては予算上遠くで行われるオリンピックまでは旅行が困難なアスリートもおり、国によってはこれこそが最も大切な大会だったりもするのです。2016年のブラジルオリンピックでは206の国が参加したので(世界には国は196ヶ国しかありませんが、その話はまた次回)オリンピックに比べれば小規模ですが、それでも今回も39個のスポーツを41ヶ国から6680人の選手がペルーのリマに集結して大会が行われました。
私は医療チームなので関係ないと思っていたのですが、何と開会式の入場までアメリカチームと一緒にユニフォーム着用でで行うことができ、自分もアスリートのごとくはしゃいでしまいました。
アメリカ大陸ではこのパンアメリカン競技大会とオリンピックが最も規模の大きい大会なのですが、選手や私達医療チーム、その他のスタッフも選手村に滞在します。ここは特別に大会のために建てられたアパートで、一般的には大会の後は一般に売られて使われます。
東京オリンピックでも中央区晴海に特設されることで話題になっていた施設ですね。
今回はリマの一角に建てられた施設に、私も滞在しました。
選手村は宿泊施設だけではなく大食堂や洗濯、トレーニングを行うジム、プールやビリヤード、お土産屋さんなどもあり本物の街の様です。朝同じ時間にジムに行き、ランニングする私は同じ様な時間帯で生活をする他国の選手、選手村の住人たちとも何となく顔見知りになります。
選手村なので基本に歩いている人の体脂肪率10%以下、平均年齢25歳、当たり前ですがほぼ全員がアスリート体型です。そこに混じって、コーチ、医療チーム、監督などの平均年齢45歳、体脂肪率20%強、元アスリート体型の人が混じっている感じです。自分はまだアスリート側で通用すると信じていましたが、トップのアスリートと一緒にトレーニングをするとそんな意識も吹っ飛んでしまいます(笑)。
さて、選手が食事をする巨大体育館の数倍ありそうな食堂は種類が豊富で、基本的にカラダに悪そうなものは少なく、24時間体制で稼働していました。いつでもお腹が空けば食堂にご飯を食べに出かければ良いのです。何でも食べ放題は思ったよりも楽しく、帰りまでに私は全てのメニューを食べてしまいました。今回は食事の『質』についてのコメントは避けますが、『量』はとにかく無制限でした。
食事の席での話題は文化を問わず食事の話題になるのですが、開催から7年経った未だに2012年ロンドンオリンピックで毎日食べたプライムリブが最高だったとの声が多数あり、人生で何度もオリンピックに出場するアスリートが世界には何人もいるのだと実感すると同時に、選手の開催国に対する満足度と現地の食事には深い関係があることも実感しました。そして時には3ー4回のオリンピック出場経験をもつアスリートなどと話をする機会もあり『今年42歳の自分は一度もオリンピックに出場したことがないのに、この若者はもう3回も出場』などと訳のわからない嫉妬を覚えたりもするのです。
また次の『東京五輪は食事が美味しいだろう』との期待話も主要トピックでした。これを読んでいる方に2020東京オリンピックの関係者の方が見えたら是非期待に応えてあげてください。美味しいものを食べれば選手の『日本への好感度』は相当高くなるはずです。
さて本題の私の仕事は痛みや症状のあるアスリートの診断、治療であり、食堂で食事をしたり、アスリートと競り合ってトレーニングをすることではないのです。特設のクリニックには毎日大勢のアスリートがやってきます。運動しまくる彼らは痛いのは当たり前、怪我をしていなくても通常の生活、トレーニングのルーティンとしてメンテナンス治療にも沢山のアスリートがやってきます。
このメンテナンスの概念はとても大切です。アスリートはトレーニングできれば強くなりますし、怪我をしてしまえばそこで休まなければならなくなります。怪我を予防するメンテナンスで限界をプッシュし続けるのも強いアスリートの秘密だったりするのです。
一般の方も唯一のカラダをメンテナンスすることは大変重要だと思います。
[と言うことで、クリニックでは一般の方、ウイークエンドウオリアー、ビジネスパーソンアスリート(そんな言葉があるかどうかは知りませんが、勝手につけました)へ向けての『リカバリー セッション』を作りました。
これは現場でトップのアスリート達が日常的に受ける、『手の治療とノーマテック』2つの方法を組み合わせたセッションです。詳しくはこちらです。]
今回の大きな学びは何と言ってもアメリカトップクラスの整形外科、スポーツ医学の医師達が現場で医療を行っていることでした。症状によっては彼らと一緒に検査、診断を行ったり、アスリートの治療を行ったりします。
スポーツ カイロプラクティックと言っても日本では未だ『指圧、マッサージ』のイメージしか無いのが一般的なカイロプラクティックの認知状況かと思います。場合によっては東洋医学や鍼灸と同じものかと考えている方もみえるかもしれません。しかし、アメリカトップのスポーツカイロプラクティックは米国オリンピックチームに同行する正式な医師団です。このチームは整形外科医、オステオパシー医師、スポーツ医学、一般内科医、アスレチックトレーナー、理学療法士を含むメンバーで構成されており、それぞれの医師達が、同じ検査、診断の元でお互いを尊重した医療を行うのです。
この辺りにご興味のあるか方は拙著の『世界の最新医学が証明した 究極の疲れないカラダ』をご参考にしてください。キンドルでも購入可能です。
つまり現場で通用するカイロプラクターはエビデンスベースと言われる科学的根拠を基にした診療を行う医師ばかりでさらには特殊なスポーツ医学の教育を受けた医師ばかりです。 一般的な、『背骨のズレを直す』様な方達は残念ながら務まらない職務なのです。具体的にはスポーツ医学の認定、学位を所持してはじめて選択肢の中に入れます。それがなければ、チームイベントのボランティア、見学すら認められません。最低限の資格がこのカイロプラクティック スポーツ医師認定またはカイロプラクティックスポーツ医学学位なのです。まだこの数は全米でも350人程度、ニューヨーク近辺では数名です。
さて今回の旅、沢山の学びもありましたが、それよりも自分の信じてきた医療、毎日行う医療がアメリカオリンピック委員会(USOC)医師団の一員として認められたこと、通用した事が何よりの喜びだったと言えます。日常とは違う環境でアメリカのトップアスリート達と関わり、直後にテレビまたはサイドラインで試合を観戦。勝てば自分の事のように喜び、負けたら自分事のように落ち込む。そんな体験は今後の私の臨床を通しても何回もない貴重な経験だと思います。
最後になりますが、このパンアメリカン競技大会の次にアメリカ オリンピックチームを待つ大きなイベントは4年に一度の『2020東京オリンピック』、その医療チームのアメリカ医療チーム選考がどうなるかは私には知るすべもありませんが、ここへの参加ができれば日本のカイロプラクティック業界にとっても面白い風穴になるのではと期待をしています。
未だ日本で法制化されない様な『民間療法』『医療類似行為』がアメリカでは『医師』の立場で正式に医療チームに加わっており、そんな現実を日本語で日本へ説明できたらと楽しそうだと考えてしまうのです。
クリニックには金メダル獲得のビーチバレーチームから頂いたユニフォームと写真を飾ることにしました。その新たな額を見て『これのことですね!!』と声をかけてくださるクライアントの方は、最後まで私のふざけた文章を読んでくださった優しい方だと謹んでお礼を申し上げる予定です。
コメントする コメントをキャンセル